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ヨーロッパで健康診断の重要さを証明するために、ある大規模な調査が行われました。 多数の人々を正確に2つのグループに分け、一方には健康診断を定期的に受けてもらい、他方はいっさい受けないという約束をしました。
15年後、健康診断を定期的に受けたほうの人たちが、どれくらい長生きできたかを調べたのです。 ところが、その結果は担当した研究者自身が唖然としてしまうようなものでした。
長生きしたのは、なんと健康診断を受けなかったグループのほうだったのです。 この研究結果をどう考えればよいのでしょうか。
この研究者たちの意見によれば、人間が長生きする秘訣は、過保護にされるよりも勝手気ままに自然にしたがって生きること、というものでした。 健康診断を受ければ、今度は何をいわれるかと、ドキドキします。
たいてい、どこか1つくらいは悪いところが見つかります。 見つかれば見つかったで、精密検査を受けたり、クスリを飲んだり、手術を受けたりと、次々に気の重い話が追い討ちをかけます。
これでは体にいいわけがない、というわけです。 これは、何年か前の朝日新聞に紹介されていた話です。
それにしても、健康診断は大切なことと決まっていましたから、それをわざわざ大がかりな調査で証明しようとした研究者たちにも頭が下がります。 医学は、人間を長生きさせるためのものです。
この研究結果が正しいとすれば、今までの医学の常識が根底から覆ってしまいます。 こんなことが本当とはとても思えません。

何か、研究の方法に間違いでもあったのでしょうか。 幸い最近になって、検査や治療の効果について、大規模な調査が世界中で続々と行われるようになりました。
それらの結果がどうなったのか、大変気になるところです。 肺ガン検診は体に悪い。
1990年、フランスの研究グループが、ある調査の結果を発表しました。 その内容は、肺ガンの集団検診を受けると長生きできないという、大変衝撃的なものでした。
このような調査は、倫理の問題が常に障害となりますし、第1、手間が大変ですから、今までやる人もあまりいませんでした。 一体、どんな方法で、こんなことを調べたのでしょうか。
このグループは、まず1万人近い人をボランティアとして募りました。 40歳から64歳までの人たちで、肺ガンになりやすい年齢層です。
それも全員がタバコを吸っている男性です。 肺ガンができやすいグループを対象にしたほうが、調査結果がより明確になります。
タバコを吸っていると肺ガンになりやすいことは誰でも知っていますし、科学的にも証明されていることです。 男性に限ったのも、男女差別をしたわけではなく、肺ガンが女性に比べて男性に多い病気だからです。
こんな人々が調査対象ですから、すでに肺ガンができてしまっている可能性も大いにあります。 そこで、まず全員に肺ガンの検査を受けてもらいました。

その結果、不幸にして肺ガンが見つかった人は、この調査から外れてもらうことにしました。 この段階で残った人は6000名ちょっとで、大変な人数です。
次に、この人たちを正確に2つのグループに分けました。 一方には、胸のレントゲン撮影と痰の検査を半年に1回ずつ行い、他方には何もしないことにしました。
肺ガンの集団検診にレントゲン撮影と痰の検査を行うのは、どこの国でも大体同じです。 肺ガンになると、痰が出やすくなりますし、ガン細胞が混ざって出てくることがあります。
したがって、痰を顕微鏡で調べる検査をします。 ガンがあっても痰には出てこないこともありますから、一緒に胸のレントゲン撮影もしなければなりません。
どちらの検査も、受診者にとっては痛くもかゆくもありませんし、あまりお金もかかりませんから、集団検診に適した検査といえます。 これを3年間続けて、様子を調べることにしたのです。
片方のグループには、3年の間集団検診を受けさせないのですから、思い切った調査を始めたものです。 これが倫理に反することかどうかは、微妙なところです。
病気の人が対象ではありませんし、何より健康診断ですから、受けるも受けないも個人の自由です。 とくにレントゲン撮影は、もしかすると体にあまりよくないかもしれないと思っている人もいるくらいです。

したがって、倫理的には、まあ許される範囲内ではないでしょうか。 幸か不幸か、わが国では、法律によって働く者すべてが健康診断を定期的に受ける義務がありますから、このような調査はまずできません。
特定の人々に健康診断を受けさせないのは、法律に触れる可能性があります。 さて、集団検診を定期的に受けたグループでは、3年間の調査期間中に二6人が肺ガンと診断されました。
このことは、集団検診を受けなかったグループにも同じくらいの人数の患者さんがいて、見逃されてしまったことを意味します。 一方、集団検診を受けても受けなくても肺ガンは起こりますし、具合が悪くなれば調査の目的がどうであれ、当然、自分で病院へ行って診察を受けるはずです。
そんな形で肺ガンが見つかった人の数を調べたところ、集団検診を受けたグループでは10人、受けなかったグループでは19人だったということです。 後者で、病院へ駆け込んだ人が多かったのもうなずけます。
素直に解釈すれば、集団検診を受けなかったために早期発見のチャンスを逃がした、と考えるべきなのでしょう。 3年間に肺ガンが見つかった人の数を全部合わせると、集団検診を受けたグループでは36人、受けなかったグループは19人となりました。
この差が集団検診を受けなかったために損をした人の数ということになります。 この結果をみる限り、やはり集団検診は大切で受けなければならない、という当たり前の結論になります。
3年間の調査が終わってから、さらにあと3年、2つのグループの様子が調べられました。 何回か胸のレントゲン写真を撮って、肺ガンの発見に努めたのです。
また、これとは別に、何か症状があって自分の意思で病院を受診した人についても徹底的に調べました。 こんなやり方をみても、大変しっかりした計画であることがわかります。
こうすることによって、最初の3年間で発見できなかった肺ガンをほぼ完全に確認することができますし、その後の3年間で起こった出来事を詳しく知ることもできます。 その結果、集団検診を受けたグループでは72人が新たに肺ガンであることがわかりました。

ところが、集団検診を受けていないグループでは63人しか見つかりませんでした。 研究者の先見の明この数字は、変です。
最初の3年間で集団検診を受けていなければ、肺ガンの発見が遅れるわけですから、あとの3年間で発見される人数がもっと増えてもよいはずです。 それが、集団検診を定期的に受けた人々に比べて、はるかに少なかったのですから、かなり変です。
この研究者たちは、肺ガンだけではなく、調査期間中と調査後の計6年間における死亡者の総数についても集計をしていました。 死亡者の総数ですから、さまざまな病気、事故、自殺、老衰などのあらゆる原因を含みます。
その結果、集団検診を受けたグループは341人、受けなかったグループは293人となり、大きな差ができてしまっていたことがわかりました。

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